2013/10/06

のこり福のこと




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  ”更新が長い間お休みになっておりました。お詫び申し上げます”


十月に入ったというのに暑いほどの陽気です。

さて、この「のこり福」というタイトル。。。?

私がご注文をいただいて着物をを制作するとき、ほとんどの場合糸染めからはじめます。
グレーや茶色、青磁色などと色名でお話をするときもあれば、桜でとか桃でとかで決めるときもあります。
でも、最終的には実際染めながら、糸が染液や水にぬれている状態で、頭の中いっぱいにイメージしている微妙なニュアンスを求めて「ここで!」というところで決定します。
このときの私の頭の中は、それを着る方のイメージと私の中に積み重なっている染材や媒染剤とのデーター、何げなく取り込んでいる情報などが渦巻きはち切れそうです。
たまには乾いてからの色が考えているよりも淡いと染め重ねたり、濃すぎると新しい糸で初めから染め直したり、媒染剤を変えたり。
そして当然のことながら経糸を機にかけ織りあげるまでの長い行程で充分糸が足りるように多い目の量の糸を染めます。

このあたりでお気づきの方もいらっしゃるでしょうか。
とうぜん色んな糸が少しずつ残ってきます。量もさまざま。
さし色として使う場合もありますが、およそ十年に一回くらいそれらの小さな綛や木枠に残る糸で経糸を整経して、緯糸にも合いそうなのを集めて自分用の着物を織ります。
正直なところ、縞のデザインもあまり深く考えないで気楽に息抜きとして作ります。
「あっ、そうそう、私グレーの紬なかったなぁ。。。」と思い、経糸は茶系や明るい色や本当にいろいろ十色以上だったのですが緯糸をグレー系の濃淡いろいろにしたらこんな着物ができました。
これが「のこり福」の意味です。

真綿紬なので袷にする方が無難なのですが、この頃の十月や五月というのは気温も高くて日射しも強くて袷を着るにはそぐわない気がします。
私は紬を単衣仕立てにして、単衣と袷の中間の時期に着ます。
お襦袢や単衣羽織、袷羽織などとの組み合わせでその日の天気や時間帯によって調節します。

そして余談なのですが、
「和楽11月号」をみていたら、なんと偶然にも、とてもよく似た色柄の素敵なグレーの紬の着物が出ていて。。。何とも嬉しく「福顔」になる私でした。

2013/06/05

夏帯のこと













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今年はそうそうに梅雨入りしました。
いよいよ夏の着物の季節ですね。

暑くて大変だけど、すっきりとした色や柄、そしてシャキッとした絹や麻などの織物の肌触り。
シンプルなものたちがうまく組合わさると、涼しく見えるところが「夏のきもの」の楽しみです。

これは『清流』と名付けている夏帯です。
もし私の夏の着物姿をごらんになったことがある方なら、きっと記憶にあるのでは?というほど良く締めています。
経糸は絹の太細のはっきりした真綿紬糸、緯糸は手績み苧麻の糸です。
色は生成りの地色にほんの少し藍色とグレーや薄茶色などを加えただけのおおらかな経縞です。
平織りながら、緯糸の苧麻が夏らしい張りを、真綿糸の太細がランダムな隙間を作ってくれます。
多分、両方とも同じ苧麻糸ならちょっと単調になり色も自由に使えないかと思います。
締め心地も膨らみすぎず、手入れも楽です。
毎回、霧吹きで水をシュッシュッとかけて干しておきます。苧麻の特性でちゃんと綺麗に皺がとれます。
そしてやはり、涼しいです。

加える色や縞柄を少し変えてこれまで何点か織ってきましたが、今回は「私のと同じで!」というご注文で再制作しました。

一つの帯にきもの三枚(?)と小物を変えて、いろいろと涼しげに組み合わせてみました。
なんだか、ジメジメした梅雨も暑い夏もちょっと楽しみになってきました。

2013/05/05

帯いろいろ

このところ、いつもとちょっと変わった帯を試作してきました。

帯として紬きものと合わせるとこんなふうになるかな、というイメージをご紹介してみます。

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ヘリンボーンの帯のこと




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なんと、初めての「組織織り」です!

組織織りというのは、隣同士の糸が上下する繰り返しの「平織り」と違って、経糸の綜絖の通し方も踏み木の踏み方も変化した織り方で、決まった法則で織っていくと柄が浮かんできます。

ずぅ〜と平織りでしたし、苦手意識もありました。
(私の学校では平織りしか学びませんでした)
でも、ちょっと心動かされ、綾織りの一種の『ヘリンボーン』の帯を作ってみました。

「組織織り巧者」の方から見れば超簡単!なのでしょうが、
初めてのことを一人で挑戦するのは四苦八苦です。織り始めるまでは何度もミスが。。。
でも一転、調子良く織れるようになると楽しい!
単色なのに柄がある。平織りの部分と同じなのに全然表情が違う。
紬糸の太細があるので、機械的にならずツイードみたいな味が出たと思います。

「組織織り」を深めるつもりはないのですが、このシンプルでシックな『ヘリンボーン』の感じは『いいなぁ。。。』と思っています。

光る帯のこと






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まさか! とお思いの方もいらっしゃるでしょうか。
前回の素朴な『丹波布写』とは対極ですね。

「ひかりもの」が好きでない私。
洋服もアクセサリーも靴も草履もバッグも車も着物も帯も。

紬、紬と毎回繰り返しているのに、まさか、金糸銀糸の帯?!

めったにフォーマルなんてない私ですが、息子の結婚式に「紬の訪問着」を着るにあたって、さすがにいつもの紬帯では。。。と考えました。
で、「紬のきものに合う、ちょっとフォーマルな袋帯」を作ってみよう!と思いまして。
(実は、それには間に合いませんでした。)

まだまだ試作中です。
ずっと前に糸屋さんから金糸銀糸を貰いましたが、使うこともなく戸棚に眠っていました。
時間は人を変えることもあるのですね。
たまたま、金糸と紬糸を合わせて使った織物に出会い、
「いや〜なかなかいい感じ」これも何かのご縁かと。
やってみよう!と。

『世の中にあまりない光る袋帯』を作ってみよう!と。
パーティーやお祝いの場や、ちょっと改まった場にも『紬のきもの』をお召しいただきたいから。

初めは絹糸の経糸に金糸と紬糸を緯糸として織りました。
色もグレーで網代柄だったので、シックで個性的な布になりました。

二度目は金銀糸と絹糸を経糸にしました。
経縞と横段が入った縞と、けっこう光ります。底から光ります。
(なぜか、「佐賀錦」を思い起こさせます)
どんな帯になるのでしょうか。袋帯にしてみようと思っています。

お好みでない方や必要のない方には申し訳ありません。
今年はちょっと、いろいろ楽しんでみようと考えているのです。

また追ってご紹介したいと思います。

2013/05/04

丹波布のこと





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織物好き、紬好きの方で「丹波布」が好きな方も多いのでは?
江戸から明治にかけて丹波地方で作られて、京都や大阪でお布団として使われたそうです。

茶綿の色や植物で染めた茶系の色と藍で染めた青系の色、そして木綿の白。
それらがさまざまな縞や格子に織られるだけで魅力的な布になるのには、糸の持つ力もあるでしょう。木綿糸だけでなく絹の紬糸が使われることもあったそうです。

普段使いのものの中から美を見出した柳宗悦や上村六郎にその魅力を評価され、骨董好きの人たちに好まれ続けた素朴な織物です。

私の学生の頃でも、骨董好きの若い先生に教えられて「天神さん」(京都の北野天神の縁日の市のことで、私の生家はすぐ近くです)の古着屋さんを廻ると藍色系のぼろぼろの「布団のがわ」が安く買えました。
あまりに汚れているので、家で洗うのは気がひけて学校の実習室の染料が染み付いた洗濯機を使わせてもらいました。
そして穴があいたり薄くなったところは裏から無地の部分を継ぎ当てて、いく幅もつなげて大きな大きな風呂敷を作りました。
これは何を包むかというと。。。その頃は大きなタピストリーを作っていましたので、巻いて細長い筒状になった作品を運ぶときに包んでいました。

色柄や状態の良い「古丹波布」は新門前の古布屋さんでは小さくてもすごいお値段で、希少な布のようです。
また一方、今では丹波地方で復元をされ、たくさんの作家や織り手の方に伝承されて、現代の丹波布が作られているようです。

私は何年か前に駒場の日本民芸館で「大津絵の掛け軸」の表装に使われている丹波布を見て、改めてその魅力にはまりました。
売店で買った「丹波布」号の冊子を何度も眺め、袋物の本に出てくる丹波布の写真を集め、憧れていました。
いつかこんな味わいの布を自分なりに織ってみたいなぁ!と思っていました。

数年前、桜で染めたベージュと藍で染めたブルーが糸棚のなかで隣り合っているのを見て、イメージを追いながらざっくりとしたストールを織ってみました。
するとやはり「丹波布好き」のかたがたが気に入ってくださいました。

そして、いよいよこの春、自分なりに(復元ではなく)、糸使いや織る密度や布の質感などを考えて、『丹波布写(うつし)の帯』を作ってみました。(リスペクトと言うのでしょうか)
糸は経、緯とも絹の紬糸。桜と藍で染めた色です。
とりあえずは八寸のものと九寸の二点。
まだまだ試行錯誤中ですが、これからも合間を見つけて織ってみたいと思っています。
こんな布のお座布団も欲しいですね!

2013/03/31

桜の頃のこと






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あっという間に季節が変わり、春本番となりました。
京都の桜はちょうど満開。
比叡平の桜はまだつぼみが膨らみ始めたところで、四月に入ってから満開を迎えそうです。

今年もやはり桜の着物を織りました。
ちょうど桜の頃にお誕生日を迎えられる方へご両親からプレゼントなんです!
”なんてお幸せなんでしょう!!”

まだお若いので、私が桜で染めている色のなかでは濃いめの色から淡い色まで何色も使っています。
そして生き生きとした様々な色。

『春の夢』と題しました。
溢れるほど咲き誇るたくさんの桜の遠景に春の光が射し込むようなイメージです。

2013/02/10

お知らせ/隆兵そばさんのこと 2

先月に続き、隆兵そばさんのブログ「散歩道」に今月も
「草木染めのお話 後編』 として私のことをご紹介くださっています。
私のとりとめのない話の中から、いろんな要素を汲みとって草木染めのことをお勉強してくださったようです。
丁寧な説明のあとに、とても素敵に文章を締めくくっていただいていて本当に嬉しく思いました。
どうぞご覧になってみてください。
http://www.ryuhei-soba.jp/blog/?cat=4

還暦のこと






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昨年末に続き私事で恐縮です。

この2月で夫が還暦を迎えました。 
元気に『年寄り』になれたことを祝い、生まれ変わってもう一度赤ちゃんになるという意味なんでしょうか、「赤いもの」を身につけてお祝いしますよね! たしか...

我が家では「赤いちゃんちゃんこ」というのも何なんで... 
真っ赤なマフラーを織ってプレゼントしました。そしてお座布団のかわりにクッッション。

茜や蘇芳、コチニールやラックダイなどで赤が染まります。
でも今回はガツンととした真っ赤にしたいな! と思いました。
ちょうど頂き物の化学染料で染めた真っ赤の真綿糸が有りましたので、それを全部使って整経しました。
マフラーを数枚織ったあと、ちょっとしっかり目に織ってクッションカバーをつくりました。
これだけしっかり赤いとかえって男性にも似合いますね!
まあ、お誕生日が二月で良かったです。
私は八月生まれなのでね、なにか別のものですね。もう少し先ですけど...


そのほかにも、お友達からいろいろと赤い素敵なものをプレゼントしていただいたり、小旅行にも出かけてきました。
これからも元気で仲良く暮らして行きたいです。
       

2013/01/28

遠来のお客さまのこと




お正月休みも終わる頃、遠い街でこのウェッブサイトをご覧になっている方からメールをいただきました。
「美しい織物」というタイトルでした。
サンフランシスコで茶道やお茶で使う袋物などを作ることを学ばれているそうです。
『1月中旬に京都と東京を訪れるので、あなたの織った裂地をわけてくれませんか。その紬で古袱紗や仕覆を作りたいのです。』と言う内容でした。

そして本当に比叡平の拙宅まで訪ねてきてくださいました。
ご挨拶のあと、私はいちばんに『どのようにして私のサイトを見つけられたのですか?』とお聞きしました。
「TUMUGI」や「KOBUKUSA」などのキーワードで検索されて、この私のサイトに来てくださったそうです。
画像を何度もご覧になって、文章は時々日本の方に読んでもらっておられたようです。

お茶や草木染め、織物、糸のことなどできる範囲の英語で話がうんと盛り上がり、想像していた以上に熱心に真剣にご覧になって、私の紬を大変気に入ってくださいました。
とても繊細な感性をお持ちのようで、緯糸に僅かに走る鮮やかな色の筋や紬糸の節や太細がつくる布の表情に感心してくださっていました。
もちろん、私としてはものすごく嬉しくて感激です。

楽しみながら、迷いながら何点かの裂地を選び、大切そうにお持ち帰りになりました。
こんなふうにのんびりとしたブログですのに奇跡のような出来事でした。
『今年もがんばって素敵な紬を織ろう!!』と心から思いました。

Thank you for comming, Bo? san.

2013/01/16

お知らせ/隆兵そばさんのこと

京都の桂離宮の近くにあるとても素敵なお蕎麦屋さん、
「隆兵そば」をご存知でしょうか。
いろいろとご縁が有り、伺ったりお越しいただいたり仲良くしていただいています。
お蕎麦を主にしたお料理の数々は繊細で純粋で見事です!
お若いご亭主の隆兵さんと奥さまの文香さんは器をはじめ工芸や民芸にとても興味をお持ちです。
そんなお二人が「散歩道」というブログをされていて、昨年末に取材に来てくださいました。
そして元旦号に「草木染めのお話」としてアップしてくださっています。
どうぞジャンプしてみてください。
http://www.ryuhei-soba.jp/blog/?cat=4

2013/01/15

沖縄の桜のこと














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新年を迎えました。今年もどうぞ宜しくお願いいたします。

これまで何度も「桜染め」のことをお伝えしてきました。

家やご近所の庭の桜の枝で染めることがほとんどでした。染井吉野や山桜など。
昨年の秋、沖縄の友人から「12月になったら沖縄の寒緋桜で染めてみませんか」とお誘いをいただきました。
ご存知のように沖縄ではかなり早く、一月に桜が咲きます。ですから、そのひと月前くらいには染めないと。

カフェの大きな窓から本部の海が見渡せる丘に有り、夕日が海に沈むのをを見ながら入れるバスルームのあるゲストルームも有ります。

沖縄北部の本部(もとぶ)、やんばるとも呼ばれるところにその友人の素敵なカフェ「モトブヒルズ ブリリアンテ」
http://www.brilliante-motobuhills.netがあります。

そんな素敵なお誘いにのって、12月の半ばにそこへ行ってきました。

今回はそのご報告を。

鞄には糸や布、媒染剤や棒やのこぎり、タンクなど。。。ぎっしりつめて、いざ南へ!

現地でお借りできるバケツやざるにボール、大きなお鍋などが有るので大助かり。

暖かいのを通り越して暑い沖縄のお天気にびっくりしながらも、身体も心もゆったりのびのび。

建物の裏山によじ上り、雑木林の中から桜らしき樹を探し、手頃な枝をいただいて集めて
できるだけ小さなチップにして大鍋で煮出す。
一度目は茶色の液。何となく濃い!
二度目は明らかに赤茶色。いきなり赤い!グラスに入れて確かめてみる。
三度四度。。。と煮出していく。
家で煮出しているときこれほど赤い液にはならなかった。
もちろん桜の種類が違うし、咲く花の色も違う。
そして、よくよく考えると沖縄の水は琵琶湖を水源とする水より石灰質が強い水のせいも有るかもしれない。
翌日染めてみる。
想像していたほどガツンと染まるわけではないが、ピンクの色のせいが違う。
若々しいピンク。少しクールなピンク。お洒落なピンク。
いやぁ〜楽しい!嬉しい!
糸や布の質が違うと発色も違う。時間が許す限り染めて染めて。。。

その合間には、読谷村の「やちむん祭り」(沖縄の焼き物作家の器がいっぱい)や「本部手作り市(本部で暮らす作家の木工品や手描きTシャツ、地元の山菜など)、ガラス工房、島たこに島かつおに島酒(泡盛)、沖縄そばにぜんざい(金時豆のおぜんざいにかき氷がのっている)。

那覇ではワインもお料理もお店もシェフご夫妻も素敵なビストロにも出会い。
海水を温めたプールでのタラソセラピーや、「神の手か?」と思うような整体の先生に疲れをほぐしてもらい、ピンク色の機体の飛行機で帰ってきました。


本当に素晴らしくありがたい旅でした。

(咲いている桜は1月中旬になって咲き誇っている写真を送ってもらいました)