2010/10/11

桃の樹のこと 2

(前回からのつづき) やっと秋らしい日が続くようになりました。
桃の枝を何度も煮出して作った染液は思ったよりも薄い色をしていました。
どんな色が現れてくれるのかドキドキです。でも、いつも以上に「出会えた色がこの樹の色なんだ」と受けとめよう、という気持ちです。
この夏の猛暑で植物も夏バテ気味かもしれないなぁ。。。と思いながら小さな絹布でテスト染めをして、数種の媒染剤でおよその色味を確認しました。
そして、薪ストーブの灰で作った灰汁で精錬した生繭の座繰り生糸と真綿紬糸を準備しました。
いよいよ染液に浸します。染液の色は琵琶の実のようなオレンジがかった色です。
しばらくすると糸はポーォーとうす桃色に染まってきました。淡く優しい、桜より少し黄味の薄紅を含んでいます。
これは。。。そう、桃の果実の皮や果肉の色味です!桃の花の強いピンクではなく実の色なんです!
できればこのままの色を定着させたいので、椿の樹の灰汁媒染にしました。少しづつ明礬、銅、鉄媒染でバリエーションも染めました。
今回の「想い出の桃の樹」の色を糸に移し、織物にするにはできるだけ「素」に、と思い、このうす桃色を活かすために濃く染め重ねず初々しい色に留めました。この色をベースに媒染違いのグレーや黄色などを加えたシンプルな柄にしようと思います。
織りにかかるまで、しばらく糸棚でお休みしていてもらいます。

2010/10/02

桃の樹のこと 1

とんでもなく暑い夏の間中お休みしていました。やっと、きものまわりのことを考えるのが楽しい季節になりました。
今日のお話は植物と色と織物のご縁のこと。
友人がご両親のお家を受け継がれることになりました。東京の山の手、今は人の多い場所柄にもかかわらずお庭もあります。住み継ぐためのリフォームで、車庫を造るのに何本かの樹を伐ることになりました。その中にリビングの出窓を覆うほどの一本の桃の樹がありました。何とその樹は、昨年ご高齢で亡くなられたお母様が食された桃の種を植えたところ、芽を出し、ぐんぐんと育ち、ここ数年前から毎春花を咲かせるようになったそうです。強い生命力を感じさせるこの樹をとても大切に思っておられたようで、春の到来を待ち咲く花を寿ぐいく首かの歌を詠み残されていました。
その友人から「なんとかこの樹を活かす良い方法はないかしら。。。」と問われた私は、「この樹で糸を染めて織りましょう、何か形のあるものを!」と答えていました。家族ぐるみ大変お世話になったお家です。私にできることで命を生かして、美しく残したい!と思いました。
工事に入る直前に、ご夫婦で枝を伐ってくださいました。
さっそく段ボールに詰められて届いた桃の枝で糸を染めます。秋とは言えまだ夏の終わりのようなこの時期にどんな色が現れるのでしょうか?
秋晴れの日、枝を煮出します。  (次回へつづく。。。)