2010/12/28

男のきもののこと

きものを織りはじめた頃から「男のきもの」は大好きでした。
そもそも自分が着たいと思うものが男物っぽいシックな紬だったからでしょうか。
今回ご注文頂いた方は「全部まかせるから、要るものみんなコーディネートして」と言って下さいました。すごく嬉しい!
かねてよりよく存じている方ですので、こんな感じで着て欲しいなぁ、とイメージはすぐにかたまりました。
60代、髪の色が綺麗に白くなってこられているので、明るくお洒落な色を!
従来の男ものアンサンブルみたいな沈んだ紺や茶色、グレーではないものを!
永年の重責あるお仕事から、ご自分の時間を楽しむ余裕のある暮らしにシフトされる、なんとも素敵な時期に作らせていただくのですから。
きもの 羽織 帯 長襦袢 草履 足袋。(細かく云うと、胴裏 羽裏 羽織紐 半襟まで)微妙な茶〜鼠色系を中心にコーディネートしました。
きものは桜で染めた藤煤竹色に練り色の少し滲んだ大名縞。
羽織は桃で染めた金茶色に白金色が隠れた無地感覚の細縞、額裏は茶色地の富士山の縫い絞り染め、羽織紐はシンプルな房無しのリバーシブル。
帯は黒鳶色にいろんな茶色の細縞。
長襦袢は黄金色に鳥獣戯画、焦げ茶の半襟。
足袋は分銅屋の茶色。
しめは、私の裂地で本綿入りの台と花緒を伊と忠でオリジナル草履を作ってもらいました。
地味に落ち着いた感じとは反対に、羽織をより明るい色にしました。目に映る面積は一番広いからです。柄はシンプルに。きものの縞はスーツによくあるペンシルストライプとして馴染みやすく粋な印象です。
お正月や、お花見、お食事会、お芝居やお相撲見物。うんとお召し頂けると嬉しいです!

大変ご無沙汰しました! 羽織のこと 3

秋からずっと更新をお休みしていました。すみません。ずうっと制作に没頭してしまっているうちに年末になりました。この間に作ったもののことなどを少し振り返ってみたいとおもいます。
秋らしく肌寒い気候になった頃に、なんとか間に合った羽織です。
以前に桜の色のきものを作らせていただいた方の羽織です。これまでは私のもふくめて茶色系が多かったのですが、今回は優しく淡い色にしました。
やはりこれも桜で染めました。媒染が違うベージュグレーとグレーの万筋縞です。まったくの無地よりも深みがあり紬らしさを感じられます。
アウターとしての要素もあるので、万一の汚れも目立ちにくいでしょう。いろんな着物と会わせることを考えるとあまり主張の強くない柄が素敵だと思います。今回の最大の山は羽裏でした!
前回、イタリアンプリントの洋服地を使い個性的に素敵になりました。
今回はいつも通り私の縫い絞りをご所望いただいたので、どんな柄を?とお聞きしたところ、「羊でお願いします。未年の牡羊座なんで!」と即答されました。「はい、やってみます。」とお受けしたものの、すぐには下絵ができませんでした。
これまでは室町時代の辻が花染めの図案などを参考にすることが多かったのですが、日本の伝統的な柄にあまり羊は見かけないですよね。思いつくのは正倉院の樹下羊ですがちょっと違う感じ。
いろんな羊を描いてみるうちに何となく羊と雲が合わさってきてモコモコの牡羊と雌羊が空に駆け上がっていくみたいな羊を描きました。モコモコの方が縫い絞り染めをするのに適しています。大地と空の色は前述の桃で染めた優しい鳥の子色です。苦労したけれどとっても楽しかったです。羽織紐はやはりいつものシンプルなもの。可愛いめの色を選びました。

2010/10/11

桃の樹のこと 2

(前回からのつづき) やっと秋らしい日が続くようになりました。
桃の枝を何度も煮出して作った染液は思ったよりも薄い色をしていました。
どんな色が現れてくれるのかドキドキです。でも、いつも以上に「出会えた色がこの樹の色なんだ」と受けとめよう、という気持ちです。
この夏の猛暑で植物も夏バテ気味かもしれないなぁ。。。と思いながら小さな絹布でテスト染めをして、数種の媒染剤でおよその色味を確認しました。
そして、薪ストーブの灰で作った灰汁で精錬した生繭の座繰り生糸と真綿紬糸を準備しました。
いよいよ染液に浸します。染液の色は琵琶の実のようなオレンジがかった色です。
しばらくすると糸はポーォーとうす桃色に染まってきました。淡く優しい、桜より少し黄味の薄紅を含んでいます。
これは。。。そう、桃の果実の皮や果肉の色味です!桃の花の強いピンクではなく実の色なんです!
できればこのままの色を定着させたいので、椿の樹の灰汁媒染にしました。少しづつ明礬、銅、鉄媒染でバリエーションも染めました。
今回の「想い出の桃の樹」の色を糸に移し、織物にするにはできるだけ「素」に、と思い、このうす桃色を活かすために濃く染め重ねず初々しい色に留めました。この色をベースに媒染違いのグレーや黄色などを加えたシンプルな柄にしようと思います。
織りにかかるまで、しばらく糸棚でお休みしていてもらいます。

2010/10/02

桃の樹のこと 1

とんでもなく暑い夏の間中お休みしていました。やっと、きものまわりのことを考えるのが楽しい季節になりました。
今日のお話は植物と色と織物のご縁のこと。
友人がご両親のお家を受け継がれることになりました。東京の山の手、今は人の多い場所柄にもかかわらずお庭もあります。住み継ぐためのリフォームで、車庫を造るのに何本かの樹を伐ることになりました。その中にリビングの出窓を覆うほどの一本の桃の樹がありました。何とその樹は、昨年ご高齢で亡くなられたお母様が食された桃の種を植えたところ、芽を出し、ぐんぐんと育ち、ここ数年前から毎春花を咲かせるようになったそうです。強い生命力を感じさせるこの樹をとても大切に思っておられたようで、春の到来を待ち咲く花を寿ぐいく首かの歌を詠み残されていました。
その友人から「なんとかこの樹を活かす良い方法はないかしら。。。」と問われた私は、「この樹で糸を染めて織りましょう、何か形のあるものを!」と答えていました。家族ぐるみ大変お世話になったお家です。私にできることで命を生かして、美しく残したい!と思いました。
工事に入る直前に、ご夫婦で枝を伐ってくださいました。
さっそく段ボールに詰められて届いた桃の枝で糸を染めます。秋とは言えまだ夏の終わりのようなこの時期にどんな色が現れるのでしょうか?
秋晴れの日、枝を煮出します。  (次回へつづく。。。)

2010/07/30

箸袋のこと

箸袋ってご存知でしょうか?外食時に割り箸を使わずマイ箸を使うために入れて持ち歩く袋です。手作りのものや、市販のものなどいろいろでしょうが、ある企業の社内での記念品に私の紬を使った「こだわりの箸袋を記念品に!」と言う依頼をいただきました。色々考えを巡らせて作ったのがこの箸袋です。頻繁に洗って使うものですから絹ではちょっと。。。で、ベースには桜で染めた麻を使い、アクセントに紬を使いました。ボタンも貝やココナッツなどの天然素材でできたものを使いました。胡麻竹の八角箸と「見通しが良い」と縁起の良い蓮根の箸置きと組み合わせて桐箱に納まると素敵な贈り物になりました。
ちなみにポーラ系の[THREE]という、お茶の実のオイルや,植物のアロマを使っていて、自然に対してとても新鮮なポリシーを持っているスキンケアのブランドです。

2010/06/17

桜染めのこと−2

前回に引き続き桜の話しです。桜の樹、ここからあんな綺麗な色が出てくるんですね!枝は煮出すために細かく砕きます。染液の中で泳いでいるのは小物に使う麻布です。木漏れ日の中で桜色が現れてきました。そして、初夏になって織り上がった桜色のストールです。白い生糸を織り込んだところが透けています。桜の色と糸の光沢をいかすためシンプルに。

2010/05/10

ことしの桜染めのこと

3月から5月とずぅっと桜染めに浸っています。春が近づき、どの桜の樹で。。。と探している頃,ご近所の知り合いのお家で大きな山桜の樹を剪定されているところを通りがかりました。小さな蕾を持ちかけているちょうど良い時期です。「この桜、下さぁい!!!」「やぁ,助かった。好きなだけ持っていって!」ありがたいことです。私には天の恵み。しかも例年の何倍もの大量。さっそく煮出してたくさんの染液をつくりました。そして、この冬我が家にきた薪ストーブで数日間桜の薪だけを燃やして、その灰から灰汁を作り準備万端。絹糸も糸屋さんのすすめで、生糸から灰汁練りをして。今年はちょっとした秘訣も取り入れて。そして、おかげさまですごく綺麗な桜の色が染まりました。いや,まだ染め続けています。もう、何を織るとか、どれ用にとか考えていられなくて持っている糸ぜんぶ染めてしまう勢いです。まさに「桜大尽」。

くるみボタンのこと

何度もお話ししている小さな残り裂地のこと。
まさかと思う小さな布でくるみボタンが作れました。友人の田口由香さんが「はじめてでもかんたん!手づくりくるみボタンの本」を出しました。とても可愛いので,さっそく私もキットを買い作ってみました。私の紬の裂地で。シンプルに。くるみボタンってそのままなのに可愛い名前ですね。子供の頃から大好きです。ボタンホールには通しにくいんだけれど,表情があり上等な感じがします。そしてなぜか懐かしい。
2〜3センチ位でも作れるので感激!使い道が決まらなくても並べて嬉しい。桜で染めたシャツのアクセントや髪を纏めるゴムにつけるとか,真田紐を通して帯留めに。いっぱい作ってしまいそうです。
「はじめてでもかんたん! 手づくりくるみボタン」誠文堂新光社刊 田口由香 わたなべいくこ著

2010/03/31

桐平箱のこと

きもの好きの方、帯揚げや帯締めをどんなふうに収納していらっしゃいますか?
私はこんな桐の浅く広い箱に入れています。濃い色系のちりめんや薄い色系のちりめん、絽ちりめんなど夏用、帯締めなどに分けて、クローゼットの中に重ねています。一段に並べるので色鉛筆みたいに選んで取り出したり、しまったりできるので皺にならずとても便利です。引き出しや深い箱に入れると下のを出そうとすると,上のがグチャグチャになるでしょう。それにきものや帯を出してコーディネートをするときすぐそばまで持ってきて選べるしとても楽しいです。家にお見えになるお客様方がご覧になって「いいなぁ。。。」と仰ることも多いのでこの桐平箱を販売することにしました。
そしてこれを機に私が気になっていたこと、どの箱に何が入っているのかわからなくて全部開けたりすることを解消するのにとっても楽しいアイデアを実現させました。
箱の縦と横の側面と蓋の裏側三カ所に小さな絵を描いてもらいました。桐の肌に岩絵の具がのっている感じがとても好きです。でもあくまでも、豪華にこってりと蓋の上面にではなく,重ねたとき目印になるようにささやかな花の絵などを。
<実はこの絵、職人さんではなく画家の夫が一点づつ描いてくれています。>
今のところ十種の絵があります。どんどんと季節の花などが増えていきそうです。これも伊と忠GINZA のお店やオンラインショップでの取扱いか私の方にメール等でお問い合わせ下さい。
寸法/33.5x63x3.5cm

2010/03/03

「さくらもの」のこと

いよいよ春がやってきます。私はこの2月中、桜で染めた糸で着尺を織っていました。一年の内のほんの僅かな時期だけ桜の樹から美しいピンクを染めることができることをご存知の方も多いと思います。ここ数年すっかり夢中になっていて、庭やまわりの山の桜の枝で、できるだけ染めためています。濃い色ではなく淡いベージュがかった肌色のようなピンクです。本当の桜の花の色はもう少し冷たいピンクなのですが、どうしても気持ちの方が「桜色」と感じてしまいます。もう何とも言えないような優しい美しい色です。私たち日本人の肌に似合うピンクなのでしょう。「ピンクなんてに合わない」と思っている人でも身につけたくなる素敵な色です。これまでいろいろ織ってきました。いま手元にあるものだけですが、桜で染めた糸を中心にして織った作品を集めてみました。今年もあと少しで日本中がこんな色に包まれるのですね。

2010/02/15

羽織のこと 2

この冬に仕上がった羽織です。金茶色と鳶茶色の万筋縞の紬です。いろんなきものに合わせられるようにクライアントと相談しながらベーシックな色を選びました。そして羽裏地を考えるときに、その方がシルクのプリント洋服生地をお持ちになっているということなので拝見したらカラフルなんだけどレトロでモダンで、「なぁんか いいかんじ!」と気に入っちゃいました。幅も長さも充分あったので仕立ての方にお願いしたら洋服地でも大丈夫でした。出来上がってみたら思っていた以上に素敵で、二人で大喜び!こんな楽しみ方もあるんだなぁ、と感心しました。

2010/01/15

再び帯揚げのこと

新年を迎えると不思議なことに少し明るい色に惹かれるようになりませんか。寒さは厳しいのに気分は春を待つ心を映すように、深く濃い色から淡く優しい色を取り入れたいと思います。けれど、きものや帯の色柄をすべて変えるのはなかなか困難です。とくにシンプルな紬好きなら小物の色を工夫をするだけでうんと気分が変わります。私など少ないきものと帯をいろいろに組み合わせて楽しんでいるので、帯揚げだけはわりにたくさん微妙に違うベーシックな色を揃えています。私は染織作家と言っても織物のために糸染めをするので、生地染めだけをすることはあまりないのですが、このちりめんの帯揚は例外で、白生地のちりめんを後染めしています。もちろん草木染です。市販されているものは当然化学染料で染められているためか、どうしても色がきつすぎて草木染めのきものや帯にしっくりこなくて気がかりでした。そこで自分や友人用に曖昧な色を草木染して使っていたら好評で、伊と忠GINAZAで販売していただいています。と言っても、すごく色数が揃っているわけではなく、ベージュやグレーの微妙なバリエーションが中心の十枚ほどです。この辺りの淡い色がどんな色とも上品に合って、しかもなかなか売ってないんですよね。少しずつ染めて足しているので、つねに色揃えは変化しています。一枚ずつ染めるのでまったく同じ色を追加することは余りありません。これは色が微妙なので、オンラインショップでの取扱いはなく、ショップでの販売のみです。お近くにお出掛けの時に覗いてみて下さいね。