2009/06/12

手織紬のこと

 ほんの一世紀くらい前まで、人々は身近に糸をとり、布を織り、染め、縫い、洗い、手入れをして丁寧に扱ってきました。それが今では布そのものをそれほどまで大切に扱うことは日常的ではなくなりました。しかし一方では、天然繊維である絹や麻、木綿などを身につけたときの心地よさ、手織りの布やゆったりとつむがれた紬のもつ不揃いだったり、完璧すぎない質感に魅かれる人も多いようです。私もその一人。 世界中の人が大好きで、長い間大切にされてきた絹に魅せられています。織りの工程は地味で細かな作業の積み重ねです。「一糸乱れず」という言葉通り何千分の一本が乱れても良い布は織れません。我慢の作業が続いたあと、やっと機に経糸(たていと)が整い織り始めるときは、自分の身体で空を飛ぶように至福の時です。そうして織り上がった布は、きものや帯などに仕立てた後の残り裂れ、それで小物をつくった後のさらに小さな端裂れまでいとおしくなります。